2010年4月28日水曜日

フグ中毒・その2

(続き)
運び込まれた60がらみのおっちゃんは「漁師さん」
都市部の工業都市A市ですが海に面する地区があり
あの当時はまだかろうじて「漁師さん」がいた。
で、そのおっちゃんが自分でフグを釣って
「いつもやっているように」自分でさばいて
味噌汁に入れて食べながら仕事上がりの一杯をひっかけていたら・・・
しびれてきた。

もちろん「しびれた」だけですむ場合もありますが
このケースでは呼吸筋麻痺が急速に来ている。
とにかく気管内挿管をしないとまずいです。
ところが・・・フグ毒のやっかいなところは・・・
「筋肉の麻痺は進行するが意識ははっきりしている」
のです。
中枢神経への直接の抑制はあまり生じません。
つまりどう言うことかと言うと・・・
「意識ははっきりしているのにだんだん呼吸が止まっていくのが自分で分かる」
のです。
・・・・恐怖ですね・・・

そんな状態なのでおっちゃんパニック!
気管内にチューブを挿入するやり方は2通りありますが
どっちにしろ仰向けにして頭や首をしかるべき位置に据えないと出来ない。
パニックになったおっちゃんはストレッチャーの上で暴れまくる。
医療スタッフに事務当直の人にまで応援してもらっても抑えられない。
気道確保どころか末梢静脈の点滴を入れる事も出来ない壮絶な暴れ方。
まぁ・・・息が出来なくなるのが分かるのだから無理もありませんが・・・

こっちがどたばたしているうちに救急隊はしゅっ、と撤収していた。
・・・・
この隊には後日、別件でヤラレる事になるのです・・・

格闘約十分。
全員がへとへとになり何となく申し合わせたように顔を見合わせました。
「・・・・もう少し大人しくなるまで待とう・・・・」
暴れると言う事はまだ運動筋が完全には麻痺していないと言う事です。
完全に麻痺が進行すれば呼吸も止まりますが暴れなくなります。
全身麻酔がかかったのと同じ状態になるわけです。
おっちゃんはなぜかうつぶせになりたがる。
その方が彼にとってまだラクな姿勢なのでしょう。
そのままの状態で待ちます。
だんだんおっちゃんの動きが止まってきて喚き声も消えてきました。
・・・・静かになった・・・
「今だっっ!!」
えいやっ!と仰向けにひっくり返します。全身の筋力がなくなり
首とあごがぐらんぐらんになっています。いい感じ。
口を開かせスタイレットと言う器具を使いながら器官チューブを入れます。
麻酔がかかったのと同じ状態ですから今度は上手くいきました。
とりあえずアンビューバックで手動の呼吸補助を入れながら
骨董品の人工呼吸器につなぎ変えます。
教科書の「人工呼吸器の歴史」の項目に
モノクロ写真で掲載されているのでは、と危ぶむくらいの骨董呼吸器ですが
がっちゃんがっちゃんぶーぶーと音を立てながらも仕事はしてくれている様子。
その証拠に心拍・血圧は安定している。よしよし。
汗をぬぐいながら(主に冷や汗)転送先を探しにかかります。

意識が残っている状態での気管内挿管はもちろん難しいです。
結構太いチューブを鼻やら口から押し込まれるのですから
抵抗がありますし、咽頭部のいろいろな反射に妨害されます。
このおっちゃんが暴れているうちに挿管するのはどだい無理な話だったのですが
だからと言って、呼吸停止に至るまでじっと見て待つのも根性が要りました。
結果オーライだけれども挿管できなかったらどうなっていたやら。
「こっちがパニックもんだよ・・・」
ぶつぶつぼやきながら電話をかけます。

その当時は大学病院の3次救急とつながりがあったので
そこの当直指導医に泣きつきました。
「フグ中毒患者でして・・・」と電話で言うと
「・・・え゛っっ!!?・・・」と引き気味。
もう挿管してありますしバイタル安定しているのでお願いしますと言うと
とにかく連れて来なさい、と言う事になりました。
事例が事例なので別の救急車を呼んで付き添って大学病院まで搬送しました。
到着するとスタッフが大勢出てきててきぱきとおっちゃんを運び込んで
最新の呼吸器につないでくれます。
研修医たちは「フグ中毒」と言う珍しいケースに遭遇してちょっとうれしそう。
張り切って立ち回ります。
・・・・結果論かも知れないけれども・・・
こういう設備・人材の整った施設に始めから連れて行けっていっただろぉぉ!
あの救急隊リーダーの顔を空に思い浮かべながら無言で絶叫する私。

救急車で当直病院につれて帰ってもらいました。
その後の記憶が無いのですが
多分、その後は大した外来患者も来ず
病棟も安定していたのだと思います。
助かった・・・・

2010年4月27日火曜日

フグ中毒・その1

毒があると分かっていても、いや、だからこそ
「フグを食べたい!」と言う欲望は
古来から日本人のDNAに脈々と受け継がれているようで
毎年どこかで「フグ中毒」は発生します。

ちゃんと毒の部分を除去すれば問題は無いのですが
「この痺れるのがいいんだ」
と通ぶって危険部位を食べてお亡くなりになる方とか
食べるほうも出すほうも「毒があるなんて知らなかった」
と言うちょっと信じられないケースとかいろいろ。

昔の話です。

工業地帯の某A市の某外科系病院。
大層、環境がナニな地区で
やってくる患者も患者
受ける方も野戦病院状態。
そんなところで週末一人当直をしていた私・・・・
怖いもの知らず+お金ほしさでしたねぇ・・・(遠い目)
貴重な体験もさせてもらいましたが。

病院自体は外科系ですが
外科医はオンコール。
何事もなければ気楽な当直のはずでしたが。
「漁師さんが自分で釣ったフグを食べて痺れています」
救急隊から連絡が入りました。
フグ中毒!!
本での知識はありますが見たこともありませんがな!

フグ毒の成分「テトロドトキシン」は厄介な毒です。
厄介な点はいくつかありますが
なにが一番厄介かと言うと
呼吸筋麻痺に至る場合があることです。
そして解毒剤はありません。
つまり重症の場合は人工呼吸器管理が必要。

「呼吸器管理ができる処に行ってくれ!」
と断ります。
なんたってぼろぼろの野戦病院・・・
酸素だって中央配管ではありません。
「酸素吸入!」
と叫ぶと看護師さんが2人がかりで
身の丈ほどもある巨大酸素ボンベをどこからか
ゴロゴロガラガラ音をたてて引っ張り出してくる施設です。
呼吸器なんて・・・一応はあるのですが
骨董品もの。
そこにフグ中毒なんてとんでもない!!

しかし相手の救急隊が食い下がります。
「いや、ちょっと唇が痺れているだけですから・・・
ちょっと見てもらえればいいんですから・・・」
とひつこい。
そのひつこさに負けて「来て下さい」と言ってしまった私。
どれだけ後悔したか・・・・

後日談になりますが、この時の救急隊のリーダーの
救命救急師が超曲者で
その後、何回か「だまされる」事になります。
10数年経った今でも顔は忘れられません。

病院が搬入を断ってたらい回しのなんのと
昨今、大層な問題になっています。
「めんどくさそう」「しんどいし」
で「満床お断り」にしているケースがあるのも事実。
しかしてなんでもほいほい受けるわけにもいかないのです。

救急隊としてはどこかの病院に押し込んでしまえば仕事終了。
後は病院の責任になるので
病院のレベルとか度外視してなんとか押し込もうと必死です。
病院にいったん収容してしまった後で重症化して
高次病院への転送が必要になっても
その受け入れ先は病院・当直の医者が探して交渉しなければなりません。
ただでさえ受け入れられにくい週末に
当直の医者が必死に電話しまくっても
相手の病院当直医も「はいはい」「でも無理」で断ります。
その間に患者の容態は悪化・・・
死亡したら自分の責任です。
次の転送先を探すのに救急センターは手伝ってくれません。
今時、地域によってはしてくれるのかな?
とにかくその時期はA市でも他の近隣地区でもしてくれませんでした。
「病院間の転送はしますが受け入れ先を探すのはそっちの仕事でしょ!?」
でガチャン。

こうなると運び込まれる医者も警戒心アップ。
ますます受け入れが悪くなる。

そして・・・
ついには「偽装」が始まります・・・・

「ちょっと痺れているだけ」の60才がらみのおっさんを
救急隊が運び込んできました。
見るなり
「なんや!呼吸が止まりかけているやないかぁぁぁ!!!」
私、絶叫。

・・・・・
救急隊が収容した時は「ちょっと痺れているだけ」で
車中でどんどん悪くなったのかもしれません。
どうも他の病院でも断られていた様子だし
その間に容態が変化したとも考えられます。
だけど「呼吸器管理が必要だ」と言う見解を押し切って連れてきて
息、止まりかけじゃん・・・

冗談じゃあない!!
「挿管!!」

気道を確保するために口から気管支にチューブを差し込みます。
そこからが地獄でした・・・・

2010年4月22日木曜日

常套句「心の闇」

「ペット虐待」親たち

(産経新聞 iza! 4/14より引用)
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 厚生労働省によると、年間4万件を超える児童虐待では平成16年以降、心中を除いても毎年50~60人の命が奪われている。中でも、2歳の次女の胸をエアガンで撃つなど、子供を使って遊んでいるとしか受け取れない、常軌を逸した行為が目立ってきた

■「心の闇」解明必要
 精神科医の斎藤学さん(69)は「『しつけをしただけ』と言い張る虐待と、まるでペットを残虐に扱うかのような虐待は異なるもので、一線を画すべきだ。『しつけ虐待』は家族の枠組みの中で起きる一方、家族の枠組みが崩壊したところで起きてしまうのが『ペット虐待』だ」とみる。

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「おいおい、ペットならば虐待していいのかよ!?」
と言う突込みがなされていましたが本当に・・・。
言葉で解説出来ない事例には
「心の闇」と言う常套句を被せてブラックボックスにぽい。
と言いますかちゃんと解説していますよね。
「家族の枠組みが崩壊したところで起きてしまう」と。
要は遺伝子的・戸籍的には親子、家族ではあっても
生物・社会的に家族ではないんでしょう。
要らないんでしょう。
邪魔者はいたぶって殺す。
ある意味、すごく本能的なのかも。

虐待してしまう自分に悩んで医療機関に駆け込む親も居ます。
そんな人はまだ「してはいけないことをしてしまう」と言う自覚がどこかにあるわけです。
「ペット虐待」はそこのところの自覚がゼロみたいですね。
ヒトとして「していいこと」「してはいけないこと」の認識が欠如。
これは戦後社会が「道徳」教育を放棄した・放棄させられた
結果だと思いますね・・・
個々の事例で当事者の心理分析しているだけでは
すまない問題ではないでしょうか。

で。
悩んで医療機関に相談に来る人もいます。
で、医者はどうするかと言うと
「話を聞かない」
この態度に徹します・・・

本人が「私は子供を虐待してしまい自分で自分を止められません!!」
とはっきり訴えていても
「あっ、そう。睡眠薬飲んでぐっすり寝てね」
くらいで追い返します。

児童相談所や警察がからんでくるとややこしいだけですし。
事件として表に出る前には通報・相談するって
どこへどう持っていったらいいかお互い分からないし。
病院としては「かっかしているんでしょ、寝ておきなさい」
くらいしか言えないのも事実なのですが。

以前、勤務していた某医療機関で
あまりにも深刻な感じの人が相談に来ました。
私も困って精神科出身の院長に廻したら・・・
「あっ、そう。睡眠薬飲んでぐっすり寝てね」
で10秒で退場させた。
あっ・・・さすがは経営者だな・・・・
と感心しましたね。
「虐待が絡んでいる」「やばそう」「社会的問題になりそう」
→「病院の評判にかかわる!」→「即刻退場!」
ですね。
真剣に受け止めようとした勤務医の私が甘ちゃんなのです。

だから個々の「心の闇」に迫ったところで
解決するわけでもないだろうに・・・と思ってしまいますね。
「くさいものには蓋をしまくる」大人の行動が要求される社会ですから。

社会自体が「闇」ですよね・・・

2010年4月20日火曜日

モンスター・シルバー

「モンスター×××」
こんな言葉が派生し始めたのはいつからでしたっけ?
とにかく一般常識が通じない。
究極のわがまま、ジコチュー。
そして攻撃的。自己主張が強く周囲を振り回して恥じるところが無い。
これまた最近派生している言葉で
「××崩壊」があります。
「モンスター大量発生で日本社会崩壊」
に至っていると思いますね・・・・

で、高齢者も負けてはいない。
キレる老人が社会的に問題視されています。
ただ、そこら辺を指摘すると
「高齢者、老人を馬鹿にするのか!」
「虐待だ!」
とそれこそキレられたりして。堂々巡り。

でも呼ばせて貰います。
「モンスター・シルバー」と。

どこまでが元来のキャラで
どこからが加齢による変化=痴呆・認知症なのか
年齢が上がるとともに分からなくなります。
もっと進むと明らかにアルツハイマー型の
攻撃性の強い状態になって介護者などに危害を加えかねない
状態に移行する場合も多い。

医療や福祉はサービスだ!
自分の思うとおりのサービスをしろ!
と憲兵づくに威嚇する老人。

思いつき、気ままで通所やヘルパー・訪問看護の
予定を変える・断る・すぐ来いと命令を繰り返す老人。

100%自分の思う通りにならないと
外来や病棟、自宅で暴れだす人だって少なくありません。

往診・在宅も常時、そのような困難なケースを
数件かかえています。

ケアマネージャーや施設・ヘルパーの管理者、家人などが
寄り集まって相談会を重ねたりするのですが
なかなか突破出来ない事例も多い。

身寄りが無い、家人にも見放された人は
金銭管理が出来ず
病院側としては未収のまま続行せざるを得ない場合もあります。

都市部だから地方だから、と言う境界が
悪い意味でどんどん無くなって来ています。
地方だと大家族制がまだ残っているので
家庭内での支援が期待できそうに思うのですが
かえって知らぬ存ぜぬノータッチの家庭も。

日本全国、これからますます
身体・メンタル・経済的に支援、処理しきれない
高齢者問題が増え続けるのでしょう。

若者が全員キレるわけではない様に
もちろん高齢者全員が問題なわけではありません。
ただ、現在から今後の日本社会の人口年齢構図の
アンバランスを考えると
暗然とした気持ちになります。

2010年4月19日月曜日

引きこもりの果て

愛知・豊川の家族5人殺傷
(毎日新聞 4/19より抜粋)
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愛知県豊川市の一家5人殺傷事件で、岩瀬高之容疑者(30)=殺人未遂容疑で逮捕=がインターネットを使用する電話回線をいったん家族に止められ、事件2日前の15日に「殺して火をつけてやる」と家族を脅していたことが一家の関係者の話で分かった。
 一家の関係者によると、殺害された岩瀬一美さんの毎月の給料は無職の長男、高之容疑者に管理されていたといい、引きこもり状態だった高之容疑者と家族のいびつな関係が浮かぶ。
次男の会社関係者や親族によると、給料を管理していたのは高之容疑者で、20万~30万円の収入から一美さんに5万円、母正子さん(58)に4万円を毎月渡し、残りを自分で使っていたという。
こうした状態について、次男は会社関係者に「父が兄に強く言えない」と話していた。一美さん自身も親族に「私が言うと(高之容疑者が)怒るんだよ」と困った様子で話していたという。
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しばらくニュースを見ていなかったら
こんな事件が起きていたのですね・・・
少し前に病院内で出くわした事例を思い出しました。

「40過ぎの長男の体調が悪い」
と両親が長男を救急車に乗せてやって来た。
見れば高度の肝不全。
・・・・何年も引きこもり+酒びたりの生活だったそうだ。

搬入された時は直接関わっていなかったのですが
病棟で「意識状態がおかしくなった」と呼ばれたので行ってみました。
腹水で腹は蛙腹。顔色・目つきがもう生きた人間のものではない。
ここに至るまで何年引きこもり生活していた、させていたんだ。
そう思いつつも一通りバイタルチェック。
血圧・呼吸は安定している。
高度の肝不全なので意識状態が不安定なのは仕方なし。
個室に入っていたのでICUに移動させた。
それが大騒動のきっかけになるなんて・・・

状態が不安定な患者を観察・対応しやすくするために
ICU、観察室に置くのは医療サイドとしては当然の処置。
ところが連絡を受けて駆けつけた両親が
「なんで個室に居ないんだ」
「どうして広いところに移したんだ」
と騒ぎ立てる・・・と言うか怯えている。
看護・加療の面からの措置だ、と説明しても
なんだかそわそわびくびくしている両親。
数分後、その訳が判明した。

意識混濁して動く体力も無いと思われていた長男が
突然、目を見開いて大暴れ!
「なんだ!!ここは!!」
「明るいじゃないか!!広いじゃないか!」
「何でこんな管(点滴)が付いているんじゃ!!」
点滴の管は抜くわ立ち上がって暴れるわ・・・
男性看護師が何人も跳ね飛ばされ
一人は逃げ遅れて首を締め上げられる有様。

かなりの量の鎮静剤を打ち込んでようやく少しはおさまったが
こういう強い興奮状態に陥ると
並みの薬量では抑えられません。

この時、両親いわく
「だから個室に入れておいてくれと言ったのに・・・・」

引きこもりを長期間していたため
広い空間、明るい処に居るのが耐えられなかった、と言うわけ。
致し方なく個室に戻ってもらった。

ここまで来ると医療の及ぶ処ではありません。

興奮と意識レベル低下を繰り返して
数日後に死亡しました。
こころなしか両親はほっとしている様にも見えました。

何らかのきっかけで引きこもりになる=社会的に活動する力が無くなる。
これはもちろん大きな問題です。
家庭内でどう対応していいか分からない。
本人の要求通りにしないと暴れる、危害を加えられる。
叱れない、是正できない。

豊川の事件では父親の給料を長男が握って
ネットで買い物三昧。
ネットを切られると暴れた・・・
なんで無職の長男に家計を抑えられるのかなぁ、と思いますが
暴力が激しくて致し方なし、だったのでしょうか。
やはりわが子が不憫でかわいそうだから
暴れられるよりはお金をあげてしまっていたのでしょうか。

私が出くわした例も同類のパターンです。
なんで無職で家から一歩も出ない・出られない人が
肝不全になるまで酒を飲み続けられるのですか?
「暴れるから」と両親がせっせと買って与えていたからです。

この様な構図の果てに病気で自分が死ぬのは
まだしも穏便な結末だったと思います。
家人を殺傷したり
もう少し外に出られる人だったら
通り魔的な事件を起こすとか
別の結末を迎える事例は多いはずです。

社会と自分、家族と自分の関係を良好に保つのは
いつの時代、どこでも難しいものです。
妥協しすぎると相手がエスカレートする。
抑えすぎると反発を招く。

・・・・・
病院での例は両親は特に何も言わずに帰って行きました。
後日談があります。
どうやら弟が居てその弟も引きこもり傾向らしく
「ネットで調べたら兄に与えられた医療行為は
間違いなのが分かったから訴訟の準備をする」
とか言っているとか言わないとか・・・。
今のところ具体的に何も起きてはいませんが。
両親の苦労は終わったわけではなさそうです。

2010年4月14日水曜日

製薬会社の業務停止命令

田辺三菱に25日間の業務停止命令

弁当屋さんが食中毒出して営業停止ならばしょっちゅうだけれども
製薬メーカーの業務停止命令とは・・・?
(医療介護CBニュースより引用)
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田辺三菱製薬の子会社バイファが遺伝子組み換えヒト血清アルブミン製剤「メドウェイ注5%製剤」の承認申請資料のデータを改ざんしていた問題で、厚生労働省は4月13日、田辺三菱製薬に対し、25日間の第1種医薬品(医療用医薬品)製造販売業の業務停止を命じたと発表した。子会社のバイファも、30日間の医薬品製造業の業務停止処分を受けた。
 同省の発表によると、バイファが品質試験、製造工程の各段階でデータの改ざんなど薬事法違反に当たる不適切行為を行っていたのに対して、田辺三菱はバイファとの情報共有・伝達が実務的に機能していなかったため、管理・監督が十分にされておらず、バイファの不適切行為を漫然と見逃し、承認申請資料の信頼性の確保と、適切な製品の製造管理、品質管理を行わせることができなかったと指摘している。
 
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「製造工程の各段階でデータの改ざんなど
薬事法違反に当たる不適切行為を行っていた」って・・・
全部がうそ?で固めた?と言う事ですか?

内容を読んでもなにをどうしたのかがまだ分かりませんが
こういう事件は「よく表に出たものだ」とも思います。
改ざんした、と言ってもそりゃあ「しろ!」と
命令があったに決まっているし
それが表に出るには内部告発・・・かなぁ・・・

ちなみにアルブミン製剤にも遺伝子組み換えがあるとは
知りませんでした。
勉強不足でした・・・
私自身がこの様なごっつい薬剤を
取り扱わなくなってから長いもので・・・
ちょいと検索をかけてみました。

遺伝子組み換えヒト血清アルブミン製剤(商品名:メドウェイ注5%、同25%、ステム注5%、同25%)2007. 11. 29



献血に頼らなくてもいいので安定供給が望めて
感染症のリスクも減って・・・と期待の星だったわけですね。

でもどんな段階のどんな内容かはまだ公表されていませんが
データ改ざんではねぇ・・・

「やれ!」と圧力をかけられたらやらざるを得ない。
そこで拒否ったら某スカ○イマークの機長のように
即日解雇の憂き目・・・と同じ構図が目に浮かびます。
子会社が改ざんしていたがそれを管理し切れなかった
みたいな言い訳はトカゲのしっぽ切りだし。
どこも同じ人の世ですねぇ・・・・

家と病院の狭間で

先日の往診、大荒れ・・・

定時往診の件数は少ない。
天候は悪い。
さっさと片付けて内勤業務に励むべし・・・
と段度っていたがそうはいかなかった。

まずは訪問看護ステーションから連絡が入る。
97歳のお婆ぁが脱水起こして入院。
家に帰りたがるので退院。
しかし「ご飯が食べられない」との事で自宅で点滴。
・・・・よくある話なのですが
この「ご飯が食べられない」がかなりくせもの。
家人・介護者は「朝・昼・晩3回の主食・副食を全量摂取」
しないと「食べられない」「食事が取れない」「死んでしまう!」
と訴えがち。
・・・・ほぼ寝たきりでご高齢で1日3回きっちり食べられる
そういう事はありえないのですがねぇ・・・・
周りが自分の年齢、活動性のものさしで
与えてしまい食べた食べられないを判断して
「点滴!」「入院!」「流動食!」と騒いでいる事も多いのです。

まぁ、それはともかく・・・・
そのお婆ぁはジュースや饅頭をぼちぼちとっている様子。
「それで良いんですよ」
と言うと介護者がようやく納得します。
「3度の食事をとらない」→「介護の仕方が悪いからとらない」
→「自分が責められる」
と言う思考回路、防衛意識が働くみたいですねぇ・・・

点滴に入った訪問看護師があわてて連絡をしてきたのは
本日になって急激に熱発してきたからです。
定時往診の合間に差し込んで行ってみます。
肘がパンパンに腫れていて動かすと痛がります。
・・・・
よく聞くと「3日前から痛がっていた」との事。
うーん・・・

関節炎は関節炎です。
細菌性のものだとしてもどこから感染するのか?
膠原病的な要素はないし・・・
高齢者に限らずどうも説明がいかない
単関節の炎症と言う現象に良く出くわします。
まあ、専門の病院・医者に見てもらったら
なにかしらの原因・病名は分かるのでしょうが。

念のため採血をかけると
「・・・思っている以上にCRP(炎症反応)高いじゃないの・・・」
家人に電話連絡。
先日の入院の前には
「家で最後まで看取るのか、入院させるのか」
と家人判断を迫ってみました。
その時は「なるべく長く家で看たい」と言ったのですが
次の日の朝に「入院させてくれ」
・・・「なるべく長く」が半日かいな・・・・
考え・態度がころころ変わる家なのでこっちも用心。
今回は訪問看護で施行している点滴に
抗生剤を追加する事で皆さん納得。

「あそこは行くたびに態度が変わる」
訪問看護の人にちょっとぼやいてしまいました。
「どうも、事あるごとに親族会議を開いていて
そこで出した意見がしょっちゅうブレるみたいですよ」
・・・・なるほど・・・・

本人が入院を嫌がっていたところで
家人・親族が決めてしまえば
家には居られません。

ようやく病院に帰ってきたら・・・
「○○さんが退院して入院しました!!」
「・・・・????何・・・・・?」

95歳のお爺ぃがちょっと遠くの病院の整形外科に入院していた。
数年前に手術した股関節の部分から
金属がはみだしている、との事で連絡があったのだが
あいにくその日は私も整形外科医も不在。
別病院に行ってしまって
「どうなったのかなぁ・・・」
と気にはしていた人なのですが。

「向こうの病院の整形外科を退院させられたが
家に帰る途中、あまりにも状態が悪いので
うちに寄ったら入院」

むこうの整形外科さんは股関節の部分だけを見て
「金属は押し込んだし皮膚表面の傷も治ったから
整形外科は退院」
とした様子。
まぁ、確かに局所だけ見ればおっしゃる通りなのですがね。
しかしてお爺ぃを見れば
全身むくみ倒して意識はほとんどないわ両手の皮膚はずるむけだわ
ぜこぜこひゅーひゅーと喘いでいるわ・・・
聞けば3日前からこっちは本当に食事も水分も採れていないとの事。
おーい・・・心不全、脱水、肺炎ですよぉ・・・・
どんな一般人が見ても状態が普通ではないのはわかりますよぉ・・・

「家で看取るのだ」と言う方針があって帰すのならばまだしも
「もう整形でやる事ないから退院」で
全身状態の悪い人を追い出すのはひどいでしょ。
それが95歳で重度痴呆の人でもです。
確かに整形の患者さんではなくなっていますが
内科医に相談するとかせめてこっちに連絡してくれるとか・・・

本当に股関節しか見ていなかったのか
「あ、状態悪くて死にそうだし面倒だから退院させちゃえ」
と思ったのか・・・
両方か・・・

家と病院の狭間で患者も家族も彷徨っています。
医者もトラブルを避けたいのと
いわゆるプライマリケア技術の不足で
お互いに押し付け合いになって消耗しています。

2010年4月12日月曜日

ようやく時代が振り向いてくれた・・・・かな?

放射線科医の地位向上

先日、画像読影を外国に下請け云々のニュースがありました。
ちょうど学会総会の直前の報道だったので
わざと火に油を注ぐつもりか?
と思っていたらこんな内容で続報が・・・
興味・関心の無い人にはばらばらの報道に見えるでしょうが
これは繋がっています。
水面下で火花が散っています・・・・
(医療・介護CBニュースより引用)
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群馬大医学部の遠藤啓吾教授は4月9日、
横浜市で開催されている日本医学放射線学会の総会で、
「放射線科医からみた画像診断の診療報酬と我々の社会的地位」と題して講演し、
放射線科医の社会的地位を向上させるため、
画像診断の診療報酬を引き上げるべきと強調した。


 遠藤教授は放射線科医について、小児科、産婦人科、外科などの
医師と比べて「社会的にあまり注目されていない」と指摘。
 放射線科医の社会的地位向上のため、
画像診断の診療報酬増や、医師が技術を磨いて
病院や医師会などで活躍することなどが必要との認識を示した
(↑ま・・・当たり前の事ですが・・・
いろいろな意味でおざなりになっている面がある事も確か)

 また、「医療経済における放射線医療」について講演した
全国自治体病院協議会の邉見公雄会長は、
「麻酔、放射線、病理が日本の医療で一番弱い。
(中略)病院のレベルはこの3つの科によってほとんど決まる」と指摘。

 さらに、医療と教育を「日本の二大基幹産業」と表現し、
「医療費と教育費の底上げ以外にこの国の道はない」と強調。
その上で、よい機械や技術、高度な知識を
適切に評価していく必要があるとの考えを示した。
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とにかく報道の内容には拍手。
ハードだけ買い揃えて意味の無い検査を乱発、
それで数少ない読影医に「とにかく処理しろ」と押し付けるのは無理です。
診療報酬を上げればいい、と言う問題だけではないと思います。
上げれば上げたで
「この読影レポートが何点だからもっと積み上げろ!!」
とありえない件数をさばかせようとする経営者も居ますからね。
出来ない、と断るとこっそり偽装したりして・・・・
最近はレポートもファイルメーカー入力だったりするから
誰が入力してもばれっこない・・・みたいな。
監査する方もレポート内容までチェックする力も時間もありませんしね。

患者、医者、経営者、社会の認識を変えていかないと
解決にはなりません。

この国における放射線医の社会的な地位の低さ、認識のなさは
昔からいろいろな場面で思い知らされてきたものですが
それに「麻酔」と「病理」で3点セットとは思いつきませんでした。
うーん・・・裏方さんではありますがね「麻」「放」「病」
この3科だけではなく根幹を成す大切な仕事はいっぱいあります。
みんな必要なんです。
外科医偏重のドラマ、漫画であおってきた社会の風潮も
どうかと思いますよね。

医者の仕事にも厳然としたヒエラルキーがあるので・・・
また、そういう伝統?封建主義がきっつい地方の出なので
そりゃあ「放射線科医です」なんて口にした途端
「そんな恥ずかしい事を表で喋るな!!」と
親・親戚から総攻撃・・・
いや、事実でして・・・恥ずかしいらしい、親・親戚としては。
よく分かりませんが。
まあ、そこまで極端ではないにしろ
「放射線科の医者?何してんだか」と言った見下し感は
厳然としてありますねぇ・・・・

報酬がうんぬんがもさる事ながら
理解・認識を深めてもらう事には大賛成。
ようやくこういう報道が出てきてくれるようになりました・・・・

法医学というジャンル

先週末になりますが法医学関連の基礎的な研修会に参加しました。


専門外の会に参加するのは初めてで

集まる人もカラーが違うなあ・・・と一人で感心。

検死・検案は人目につかない業務ですが

社会的に大切な役割を担っています。

警察・消防との連携をどうするか、など各地で皆さん模索されている様子。



昨年夏の兵庫県佐用町の集中豪雨の事例を取り上げての講演がありました。

スライドで見せられると改めてこの災害の規模の大きさが分かりました。

講演者は佐用町の地元のお医者さんで

なぜここまで水害が拡大したかも分析。

もちろん気象条件が主たる原因ですが

川に架かっている橋の構造にも問題があるそうです。

「私が子供の頃は少し増水すれば橋は簡単に流れた・・・」

現在は強度の高い立派な橋になっていて

すると増水すればごみや木が流れてきて橋げたに引っかかる。

そこで水がせき止められた形になるので

水は両横の市街地にあふれ家屋・人的被害が増す。

・・・・・高知の沈下橋の構造の逆ですね・・・・

インフラは大事ですが

大きい事、強い事が最善ではない、と言う概念が必要ではないでしょうか。

法医学とは直接関係が無い要素かもしれませんが。



インフラと言えば検死・検案の業務だってインフラなのですが

どうも人手不足、社会的な理解不足の面があるようで

各方面の方々が現場で苦労されている側面も見えました。

かと思うと「協力を申し出たのに必要ないと断られた」とか

お互い微妙にあてこすりをしていたりでおかしかったですね。

「よかれと思って」は仇

本日の往診は件数こそ少ないが新規が加わってかなりヘビー。


外来に来れなくなる→家人が薬だけ取りに来る

のパターンに陥った人には出張、と言うわけ。

介護保険のからみもあるしコンサルタントの側面が強くなる。

もっとも、医療のそして医師の本質はコンサルタント業だと思っているが。

投薬の手術の技術的な面ももちろん大切だが

大前提として「送り手」「受け手」の同意・合意がないと

いくら最先端・最高の技術を施してもそれはおせっかいに終わる。

今の世の中、患者も医者も情報過多で

何か余計な処で力を消耗している気がしてならない。



今日のテーマは「よかれと思って」

元来の性格に痴呆も加わって入院させれば暴力を振るうわ

思い通りにならないと当り散らして支援を拒否るわ

家族もよりつかないわで難儀しているじい様がいる。

要するにだだっ子の延長なのだが70をとうに超えてだだっ子では困る。

困るが仕事として関わる者はかかわらざるを得ない。

予想はしていたが往診も「あれもいらんこれも気に食わない」で拒否。

「薬もいらん」と怒鳴り散らすし、服薬管理もままならないため撤退。

担当のケアマネさんが自分も怒りながらも熱心に調整はしてくれているのだが。

このケアマネさんは本当に粘り強く熱心にしてくれるので

わたしも可能な限り調整には応じる。

それはいいのだが、このケアマネ氏、ぽろりと

「よかれと思ってやっているのに」全部拒否られる、と口走る。

うーん・・・

こっちの「よかれ」と相手の「よい」が一致する事ばかりではないのだけれどもなぁ・・・

熱心に仕事をするあまり相手のペースに飲み込まれている感じ。

相手がある一定以上の理解力を持って同意する方向をむかないと

こっちの「好意」もかえって仇になる。



本日は同様のパターンが3件発生する。

もう1件は病院職員の家族との問題。

もう1件は私用の出来事なのだが

途中でメールががんがん錯綜するので無視できず。

共通するのは「よかれと思って」

立場・状況としては全部違うのだが

こんな話が同じ日に起こるのはかなり珍しいな、と思う。



「よかれと思って」何かをする時のヒトの心理とは何だろう。

善意が行動の発端である事は間違いない。

それが仕事でも善意がなければ始まらないだろう。

しかしてその「善意」にはどうしても「我」が入る。

送り手も人間だから「よい事をしてあげたのだから感謝して欲しい」と思う。

意識・無意識はともかく何%かは絶対「みかえり」を期待する。

期待するのが当然だとも言う。

聖人・聖女ではないから、普通の我々は。

そこを押し返されると「ハラがたつ」

始めは「仕事だから」「親だから」「大切な友達だから」と理性で我慢するが

どこかで限界を超えるとヒートアップ。

そうなると自我と自我の押し合いになって、これは絶対に解決しない。



職員が私の部屋に来て親の相談を延々とした挙句(相談はかまわないのだが)

「よかれと思って・・・」と口走るので

「そこが邪魔!」と釘を刺す。

「あなたが"よかれ"と言う思いを抱きながら接しているうちは解決できない。

お互いの"よい"内容が違うのだから。

親といえどもそこは割り切って"よかれ"を捨てて付き合わない限り無理」

はっきりとそう言う。

そうですね・・・と言いつつも「仕事だと割り切れるけれども親だと・・・」とも言う。

その心情は分かるが、だからかえって厄介なのだ。

その親さんは疾病の後遺症がストレスになっているので

扱いが更に難しい。

外では普通の顔をして家庭内でいらつく=家族への甘えの下手な表現の

パターンにはまって抜けられない。

実はその親さんが発症した時、気がついた私が院長命令を無視して

強引に専門病院に転院させて、生きて家に帰る事が出来た経歴がある。

しかし、後遺症の出方がやや複雑だったこともあり

新たな問題を抱える事になってしまった。

・・・こんな事ならば見逃して重症化、落命させた方が

本人も家族も苦しまなかったのではないか・・・・

これは私の「よかれと思って」が結果、仇になった形。

少なくとも意識して見返りや感謝を期待したわけではない。

仕事として当然の事を推し進めたつもりなのだが複雑な思いである。

「よかれと思って」が葛藤となり

「命を救う」が新たな苦しみの火種となる。



平穏に生きるというのは実に難しい。

2010年4月8日木曜日

木村コーチのご冥福をお祈りしますが・・・・

くも膜下出血、動脈瘤膨らみ破裂…高い死亡率
(yomiuri online 4月7日より引用)
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くも膜下出血は、脳の表面を走る動脈に出来た動脈瘤が、血管の内側からの圧力で
少しずつ膨らんだ末に破裂し、脳と、くも膜の間に出血する。
 高血圧の持病のある人や喫煙者などで発症の割合が高くなる。スポーツも一時的に血圧が高まるため、動脈瘤破裂の引き金を引く心配がある。血管の壁が生まれつき弱く、こぶが膨らみやすい体質を持つ人がいると見られている。
50歳代が、脳動脈瘤破裂の割合が最も高いが、埼玉医大国際医療センター脳神経外科の石原正一郎教授は「脳動脈瘤があれば、30代で破裂してもおかしくない」と話す。
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内容も正確です。
でも、有名人の病気、死因が発表されるやいなや
「こんな怖い病気があったんですよ!あなたも危ないですよ!!」
と不安を掻き立てるような論調の記事を垂れ流すのは・・・・
いつからですかね、最近すっかりこのパターン。
飽きました。止めてください。

喫煙者でもスポーツでも体質でも30でも50でも
「危ない危ない」と言われたら
どうしたらいいんでしょう→病院に行きなさい、と言う事か。

脳血管の評価には侵襲の低いMRIアンギオグラフィ(MRA)が
多用されます。
いわゆる「脳ドック」です。
でも、この検査も器機のスペックによって検出率が
かなり異なります。
また、動脈瘤を見つけてもそのサイズと破裂する確立の
相関性はまだ十分確定していません。

脳神経外科医先生のサイトをお読み下さい
未破裂動脈瘤の取り扱いは難しいのです・・・・

マスコミが(作為的・習慣的に)抽出した不安に乗せられて
「検査検査!治療!」と病院に駆け込む人が
増えない事を願います。

2010年4月7日水曜日

画像診断の問題

CT診断を格安・中国に下請け

(Yomiuri online 4月6日より引用)
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医師不足などの影響で、患者の検査画像の診断をインターネットを利用して外部に依頼する医療機関が増えるなか、一部では格安サービスをうたい中国の医師への委託も始まっている。
 中国人医師による画像診断サービスを行っているのは「日本読影センター」(大阪府)。日本人医師によるサービスの傍ら、2008年に中国への依頼を始めた。CTなどの診断を外部に依頼した場合、日本国内では1件当たり3000円前後が相場なのに対し、700~900円で請け負う。結果は日本語に翻訳された報告書で依頼した医療機関に返送される。
吉村英明社長は「契約している中国人放射線科医は約15人おり、診断力はあらかじめテストしている。ただし、日本の医師免許はないため、『参考所見』という位置づけ」と話す。

 国内のCT、MRIの合計数は約1万7000台と、人口当たり先進国中で最も多い。一方、専門医は5000人程度にすぎない。民間調査会社矢野経済研究所によると、遠隔画像診断を利用する医療機関は昨年、1944施設と、10年で8・2倍に増えた。業者も50前後に上るとみられる。 最終更新:4月6日14時42分

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中国人医師の診断能力がどうのこうの、が問題ではありません。
まず、日本人が金にあかせて世界中の高価な画像診断機器を買い漁った事。
その結果、検査症例の質が下がりました。
つまり「ちょっとそこでCTとってもらおっか」
「友達とランチのついでにMRI撮りに寄りました」
という感覚で病院に来る層がどっと増えました。
病院も経営だからお客さんいらっしゃい。
もしくはなんでもかんでも「医療ミス!!」で訴えられるから
「とりあえず検査」「防御CT・MRI」を乱造するしかありません。

また、悲しいかな、オーダーする医者も
どの症例にCT、どの症例にMRIをオーダーするべきか
知らない人が多すぎます。
症例、検査目的によって使い分けが必要なのに
「とにかく撮っておけばいいんだ」感覚の人が実に多い。
現場の指導医がそう教えている場面にも何度も出くわしました。

検査の交通整理、レポート作成をしているのが
放射線診断・読影医、専門医なのです。
華々しい存在ではありませんが
専門医は全国で約5000人ですか・・・・
「なんでもかんでもCT・MRI!!」に対応出来る数ではありません。
オーダー医とデスカッションしながら検査を進めていくべきなのに
ルーチン的、ドック的、訴訟防御的検査を
どんどん積み上げられてはとても対応できません。

かくして「遠隔・外部依頼」の事業が成り立ちます。
遠隔画像診断は症例検討のため各病院をつなぐ
重要な意味のあるシステムです。
そこまでは認めるのですが・・・・

中国に下請けまで出して「参考所見」が欲しいのですか?
まずはタミフルと同じ図式で
海外のメーカーに言われるがまま商品を買いあさり
「それがなしでは成り立たない」社会構造にはめ込まれる
日本人の意識を問題視するべきです。
後先考えずに器械だけをそろえて検査を乱発し
検査の解析が追いつかないアンバランスさをまず是正するべきです。
そして「参考所見」程度でよいのならば
お医者さん、各自で少し勉強してください。
「いや、やはり専門医に見てもらわないと
何かあった時に責任が・・・・」
と思われるのならば国内の専門医と情報交換、デスカッションを
しっかり構築するべきです。

さらに指摘すればこの下請け外部依頼は診療報酬詐欺に使えます。
国内の放射線科常勤医が読影すれば
条件にもよりますが「読影診断料」を請求出来ます。
国内で読影したように見せかけて下請けに出せば
その差額はかなり大きいです。
こういう構図を頭に描いた経営者は少なくないと思います。
調べられればいずればれますが
なにせ検査数が膨大なものなので
厚労省も手が回らないでしょう。

私も某病院で読影専門医として従事している契約なのですが
「人手不足」を理由にいろいろおかしな事を要求されます。
私の名前を使って勝手にレポートを作成する事を
黙認しろ、と脅しに近い圧力をかけられた事もあります。
経営者にとってはレポートの内容・質などどうでも良いのだな、
レポートの枚数イコール札束に見えるんだな・・・・

とにかく「中国に下請け」は
製造業が国内の空洞化を招いた構図と同じで
かつ国内での不正を招きかねない流れだと言っておきます。

2010年4月5日月曜日

「麻酔薬」と「麻薬」の解釈の違い

麻酔薬、「麻薬」指定で災害医療に支障
(Asahi .com 2010.4.10 より引用)
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1月のハイチ大地震に医療チームを派遣した「国際協力機構」(JICA)が、麻薬取締法の規制に阻まれ、災害現場でも使える全身麻酔薬を日本から持ち出せなかったことが分かった。現地の活動に支障が出て、重傷患者の手術ができないケースもあったという。薬物としての使用が問題化して「麻薬」に指定されたためだが、医師らは法の不備と指摘し、厚生労働省に対処を求めている。 ********************************************************************************
「麻酔薬」ケタミンは患者の自発呼吸を止めずに麻酔管理が出来るため
呼吸器などの設備が望めない災害医療現場では
必要不可欠の薬品です。

しかして2003年頃から「ドラッグ」利用目的の密輸が増えたため
07年に麻薬取締法に基づく「麻薬」に指定され、
相手国の輸入許可証明書を持つ輸出業者しか海外に持ち出せなくなった。

まあ、これは当然の措置ですよね。

でも、だからと言ってJICAの持ち出しまでストップとは。
これまでは派遣先の病院にケタミンが置いてあったりで
なんとかしのいできたようですが 今年1月12日のハイチ大地震では、
首都ポルトープランスが壊滅的な被害を受けて地元の医療機能がマヒしたため、
対応できず、重傷者の手術をあきらめざるを得ないケースも
あったとの事。

薬物汚染阻止の為に法的規制をかけたのはいいのですが
それが他の面でどのような事態を引き起こしたのか
現場からの訴えがないと役人には伝わりません。

今回のハイチ地震の事例をふまえてJICAと外務省、厚労省とで
協議がなされているようですが
さすがお役所「法律の枠内で活動してもらわないといかん」
「とにかく許可証明を受けろ」

法律を作っちゃうとまず「法律ありき」で
硬直してしまう構図はそこここにありますが
災害救助・援助の非常時ですよ。

政府命令で派遣されるのに法律によって活動内容に制限を加える。
おかしいですよね?
せっかく行ったのに自分たちの技術を生かせないなんて。
現場の悔しさがにじみ出る内容です。

2010年4月1日木曜日

99歳の生命力

数年前から往診に行かせて貰っているお爺さまは
御年99歳!!
娘さんの家で若い世代と同居。
もちろん身の回りのことは何でもするし
天気の良い日には近所を散歩されています。

このお爺さまは太平洋戦争の生き抜き組み
しかも職業軍人さん(海軍)でした。
「あのな、大砲の弾が飛んできて"怖い怖い"と
逃げ回っていた奴らは当たって死んだわいな。
わしは"何くそっ!怖くなんかない!!"と
前に出続けた。すると案外当たらないモンじゃ・・・・」
時を経て脚色されている部分があるかもしれませんが
実際に生きておられる方からそう言われると
これ以上の迫力はありません。
・・・真のポジティブ・シンキングですよ・・・・
なまっちょろい青二才が「前向きに!」とか言いたれるのとは
重みが違いますとも・・・・

さしたる病気もなく週2回はデイサービスに通われてごきげん。
デイサービス通所を始めた直後に訪問して感想を尋ねたら
「あそこへ行くとおなごばかりじゃ!!」

・・・男女七歳にして席を同じくせず・・・世代だっ!
怒っているのか?
とあわてましたがよく顔を見るとにこにこして血色が良い。
娘さんが笑いながら解説してくれました。
「お爺さんは最長老で他の利用者さんは全員、年下の女の人。
"すごいわねー、そのお年で私たちよりお元気ねー"と
もててもてて・・・嬉しがっているんですよ!」
よかった・・・そして参りました・・・・

さらに後日談。
しばらくしてその話題を蒸し返して
「年下のお婆さん達にもてて良かったですね!」
と言ったところ
「何がっっ!!」
と憮然として言い返されました。
「婆さんなんかにもてても仕方がない!
わしが好きなのはもっと若い看護師やヘルパーじゃ!!」

すみません・・・言い方・考え方を間違えていました・・・
と平謝りの私。
この欲望、この(良い意味での)色気が99歳の生命力なのです。

アルツハイマー型認知症治療薬を承認申請

アルツハイマー型認知症治療薬を承認申請
(2月9日12時2分配信 医療介護CBニュースより抜粋引用)

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 第一三共は2月8日、子会社のアスビオファーマがアルツハイマー型認知症治療薬SUN Y7017(メマンチン塩酸塩)を厚生労働省に承認申請したと発表した。
 SUN Y7017は、独メルツ社が創製したNMDA 受容体拮抗薬で、アスビオファーマが日本国内で自社開発した。エーザイのアルツハイマー型認知症治療薬アリセプトが神経伝達物質アセチルコリンを分解する酵素の働きを妨げ、神経細胞を活性化して脳の機能を維持することで認知症の症状の進行を抑制するのに対して、グルタミン酸受容体の1つであるNMDA受容体をブロックし、神経細胞内への過剰なカルシウムイオンの流入を抑制することで神経細胞を保護し、症状の進行を抑制する。
 海外では2002年に欧州医薬品庁(EMEA)、03年に米食品医薬品庁(FDA)で承認され、アルツハイマー型認知症の標準治療薬の一つとして、現在世界60か国以上で使用されている。

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新薬開発はもちろん結構な事です。
しかして、この様な報道がなされる度に
「あ、もう私は認知症はならなくてすむわ」
と安心したり
「早く早く!!!」
とあわてる人が出てくるのは困ります・・・・

ひとくくりに「認知症」と言っていますが
この報道では「アルツハイマー型認知症」と言う
保険病名に適応がある薬剤の承認申請が出た、
と言う段階です。
もちろん内容ではそんな事は言ってはいませんが
これがマスコミ、口コミに乗ると
「もう大丈夫!!」と言ったオールインワン万能薬が
明日にでも供給されるような情報に化けるのが怖いです。
「そうではありません。まだまだ時間はかかります。
実際に承認されて臨床に使用して効果と副作用を検証、
統計を取って評価してみないと分かりませんよ」
とか説明して御覧なさい。恨まれてしまいますね・・・・
「せっかくの希望の光にケチをつけるのかっっ!!」って・・・

製薬会社、薬剤師のお仕事はしっかりやって頂かなければなりません。
でも現場は現場。
病院で、施設で、家庭で日々戦いは繰り広げられています。
心を惑わされないように努めたいものです。

抗アルツハイマー型認知症薬として脚光を浴び
「とりあえず高齢者で・・・?な患者には出しておけ」
と言った感じで処方されているアリセプトも
実際の効果が不明瞭だったり
(海外でのエビデンスは決して高くはありません)
相互作用が複雑だったりで
別の弊害をもたらしている感じがします。