2010年5月2日日曜日

フグ中毒・その3

(ひつこいけれども続き)

外病院の当直が明けて朝・・・

医者は基本、当直明けの休みはありません。
明けてそのまま通常勤務に就くのです。
病院を移動する間の時間をぬって
高次救急に送り込んだ「フグ中毒患者」の見舞いです。
・・・気になりますしねぇ・・・

「よっ、昨日は大変だったなぁ!」
受け入れてくれた指導医先生が医局で出迎えてくれました。
「バイタル安定しているしだんだん毒が抜けて
意識も出てきているしなぁ・・・」
そりゃあよかった。
「ただなぁ・・・フグ中毒で肺水腫になるのかとなぁ・・・」
「はぁ?」
「いやなぁ・・・あの患者、結構、気管チューブから
泡沫状の血性分泌物が出るんよ・・・
フグ毒で気道損傷や肺水腫になるのかと
研修医どもがずっと騒いでいてなぁ・・・」
「・・・・あのぉ・・・すみません・・・・
それって多分、私が挿管しようとした時につけた傷が原因ですわ」
「・・・・(指導医・ちょっと白い目線)・・・・」
「おっさん、パニック起こしてあばれよったんですよぉ・・・!」
分かった分かった、無理もないよなぁ、とうなづく指導医。
「まぁ、なかなか当たる事も少ない症例だったし
なんとかなりそうだしよかったじゃん・・・」
と会話をしているのは医局の片隅のちっちゃなキッチン。
指導医先生、さっきからそこで「鍋」をこしらえているのです。

医者の現場、特に救急医療では
いつ何が起こるかわからない。
併設キッチンで何かこしらえて食べられる時にかっ込むのが原則。

で、指導医先生、研修医の朝ごはんの面倒まで見るつもりらしく
大きな鍋で丹念に出汁をとってあれこれ具材をほおり込む。
「あんたも朝ごはんまだやろ?食って行ったら?」
「何の鍋っすか?」
指導医先生、ニヤリと笑って
「フグ鍋だよ!!」
すーっ・・・と血の気が引く私・・・

「あの患者の奥さんが付いてきていただろ?
食べ残しのフグの身をビニールに入れて持ってきていたのさぁ!」
・・・・そう言われればあの怒涛の処置中に
患者の横に年配の女の人がすがり付いていて
ビニール袋を差し出して
「これ!これを食べてしばらくしてから
”唇がしびれる・・・!”と言っておかしくなり始めたんです!!」
と泣き叫んでいた記憶が・・・・

「それそれ!そのフグの身の鍋だよ!!」

無言で後ずさりして逃げかける私。

「冗談だってば!タラ鍋さ!」

・・・冗談にも程がありすぎ。
タラ鍋だかフグ鍋だかを辞退して逃げ帰りました。

フグ毒は呼吸筋麻痺の時期さえクリアーできれば
特に後遺症は残さずに回復すると言われています。
その漁師のおっさんも後日、無事退院したと聞きました。
ただ、その後も漁師を続けたのか
そして自分で採ったフグを味噌汁にして食うのは止めたのか
そこの処は分かりません。

なんとかクリアーしたとは言え
とんでもない目に遭いました。
興奮のあまり、同級生や同僚に
「当直していたらフグ中毒が来てん!!」
と喋り・訴えまくったところ、10人中10人が同じ答を返してきた。
「ふーん・・・で、土に穴掘って埋めたんか?」

・・・・えっ?・・・・

古くからの民間伝承で
フグに当たったときは地面に穴を掘って体ごと埋めると
毒が抜ける・・・と言われているらしい・・・なんですか・・・?
とある有名な映画でもそんなシーンがあったとかで
「その当直病院の裏庭に穴掘ってちゃんと埋めたか?」
と本当に10人中10人が異口同音に返してきたので
こっちがびっくりした。
「そんなんで治るかぁぁ!!」

「とりあえず土に埋めておけば毒が抜けるのかも」
「自然回復力に期待」
「どうせ助からないと諦めて埋葬ついでに穴掘って頭まで土かけるんと
ちがうかぁ?手間はぶくんや」
・・・・お医者さん・・・しっかりしてくださいよぉ・・・・
どっと疲れが出てしばらくは立ち直れませんでした・・・・

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