2010年4月27日火曜日

フグ中毒・その1

毒があると分かっていても、いや、だからこそ
「フグを食べたい!」と言う欲望は
古来から日本人のDNAに脈々と受け継がれているようで
毎年どこかで「フグ中毒」は発生します。

ちゃんと毒の部分を除去すれば問題は無いのですが
「この痺れるのがいいんだ」
と通ぶって危険部位を食べてお亡くなりになる方とか
食べるほうも出すほうも「毒があるなんて知らなかった」
と言うちょっと信じられないケースとかいろいろ。

昔の話です。

工業地帯の某A市の某外科系病院。
大層、環境がナニな地区で
やってくる患者も患者
受ける方も野戦病院状態。
そんなところで週末一人当直をしていた私・・・・
怖いもの知らず+お金ほしさでしたねぇ・・・(遠い目)
貴重な体験もさせてもらいましたが。

病院自体は外科系ですが
外科医はオンコール。
何事もなければ気楽な当直のはずでしたが。
「漁師さんが自分で釣ったフグを食べて痺れています」
救急隊から連絡が入りました。
フグ中毒!!
本での知識はありますが見たこともありませんがな!

フグ毒の成分「テトロドトキシン」は厄介な毒です。
厄介な点はいくつかありますが
なにが一番厄介かと言うと
呼吸筋麻痺に至る場合があることです。
そして解毒剤はありません。
つまり重症の場合は人工呼吸器管理が必要。

「呼吸器管理ができる処に行ってくれ!」
と断ります。
なんたってぼろぼろの野戦病院・・・
酸素だって中央配管ではありません。
「酸素吸入!」
と叫ぶと看護師さんが2人がかりで
身の丈ほどもある巨大酸素ボンベをどこからか
ゴロゴロガラガラ音をたてて引っ張り出してくる施設です。
呼吸器なんて・・・一応はあるのですが
骨董品もの。
そこにフグ中毒なんてとんでもない!!

しかし相手の救急隊が食い下がります。
「いや、ちょっと唇が痺れているだけですから・・・
ちょっと見てもらえればいいんですから・・・」
とひつこい。
そのひつこさに負けて「来て下さい」と言ってしまった私。
どれだけ後悔したか・・・・

後日談になりますが、この時の救急隊のリーダーの
救命救急師が超曲者で
その後、何回か「だまされる」事になります。
10数年経った今でも顔は忘れられません。

病院が搬入を断ってたらい回しのなんのと
昨今、大層な問題になっています。
「めんどくさそう」「しんどいし」
で「満床お断り」にしているケースがあるのも事実。
しかしてなんでもほいほい受けるわけにもいかないのです。

救急隊としてはどこかの病院に押し込んでしまえば仕事終了。
後は病院の責任になるので
病院のレベルとか度外視してなんとか押し込もうと必死です。
病院にいったん収容してしまった後で重症化して
高次病院への転送が必要になっても
その受け入れ先は病院・当直の医者が探して交渉しなければなりません。
ただでさえ受け入れられにくい週末に
当直の医者が必死に電話しまくっても
相手の病院当直医も「はいはい」「でも無理」で断ります。
その間に患者の容態は悪化・・・
死亡したら自分の責任です。
次の転送先を探すのに救急センターは手伝ってくれません。
今時、地域によってはしてくれるのかな?
とにかくその時期はA市でも他の近隣地区でもしてくれませんでした。
「病院間の転送はしますが受け入れ先を探すのはそっちの仕事でしょ!?」
でガチャン。

こうなると運び込まれる医者も警戒心アップ。
ますます受け入れが悪くなる。

そして・・・
ついには「偽装」が始まります・・・・

「ちょっと痺れているだけ」の60才がらみのおっさんを
救急隊が運び込んできました。
見るなり
「なんや!呼吸が止まりかけているやないかぁぁぁ!!!」
私、絶叫。

・・・・・
救急隊が収容した時は「ちょっと痺れているだけ」で
車中でどんどん悪くなったのかもしれません。
どうも他の病院でも断られていた様子だし
その間に容態が変化したとも考えられます。
だけど「呼吸器管理が必要だ」と言う見解を押し切って連れてきて
息、止まりかけじゃん・・・

冗談じゃあない!!
「挿管!!」

気道を確保するために口から気管支にチューブを差し込みます。
そこからが地獄でした・・・・

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